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インフラはほどほどにしとけ

 最近、非常に面白いweb上のテクストを二つ見かけました。無関係な話題に見えて通底しているものを感じるので、一緒に扱ってみます。

バンコクで「物価」の意味を知る - 狐の王国
日本の良さが若者をダメにする | TOKYO EYE | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 まず、前者から。

 結局「物価が安い」と思われてるバンコクだって、日本と同じものを得ようとすればたいして変わらない金額になる。「物価が安い」のは、言い方は悪いが「もっと劣悪な製品」が存在してるというだけのことなのだ。

 別に格差はあっていいんだよ。でも今の日本には安い屋台も無ければ安いアパートも無い。貧乏人が使うようなアパートはバブル期にほとんどぶち壊しちゃったし、50円で食べれるラーメンなんて無くなっちまった。
 高度経済成長は、最後には「庶民」の生活レベルを底上げしすぎて戻れなくさせてしまった。再び訪れる格差社会に対応できる市場が消えてしまった。


 これはわたしもエジプトで痛感したことで、別にタイやエジプトに限らず、世界中の多くの国で実感できることですが、日本は本当に「高品質」なものしかない。「高いものしかない」から物価が高い、生きられない、と感じるのであって、同じくらい高いものは、タイでもエジプトでもあるんです。ただ、貧乏人には貧乏人なりのものがあって、金持ちは自動小銃をぶら下げた兵隊の守っている特別なエリアで特別なものを買う。
 「格差はあってもいい」というのは、微妙な問題なので両手を挙げて賛成はできませんが、よくも悪くも日本は非常に格差が小さい。このこと自体は素晴らしいことだと思うのですが、格差が小さい(小さかった)が故に、すべてがこの「格差の小ささ」を前提に出来てしまっているのです。エジプトやタイのように、金持ちエリアが露骨なまでに隔離されているわけでもなく、夢のようなインフラの恩恵に誰もが預かれるのですが、逆に「そんな高価なもん要らん、細々やらせてくれ」という生き方ができなくなっています。皆がそれなりにお金を持っていて、それなりに教育がある、そういう状態が前提になっているのです。

 格差が小さいことも、インフラが整っているのことも、それ自体としてはとても良いことです。少なくともわたしは、日本について一番誇らしいと思っていることは、「平等」のレベルが非常に高いことです。
 しかし、格差が小さく全員のレベルがそこそこ高いことを前提に社会ができてしまうと、一旦その枠組から外れると、非常に生きづらい世界が待っています。「セイフティネット」を作れということではなく、普通の国はむしろその落ちた先のネットの方が基本で、上は金網の向こうにあって貧乏人は最初から入れなくなっているのです。
 インフラが良いと言えば聞こえが良いのですが、インフラというのは維持するのにもコストがかかっているのです。広く行き渡らせて維持している方が総じて見て「割安」なら結構なのですが、一定以上の品質のサービスとなると、維持しているだけ無駄な可能性もあります。
 極端な話、水道から出てくる水が飲めるというのも、ものすごい贅沢です。まぁ、個人的にはエジプトの水道水も最終的には飲んでいたのでエジプトだってそれくらいのインフラはある、とは言えるのですが(笑)、それはただ単にわたしが丈夫なだけなので、日本の水道は異様にレベルが高い。その超高品質の水道水でも満足できず浄水器だのミネラルウォーターだの買ってくるのだから、すごい話です。こんな高級水を全家庭にまで行き渡らせなくても、公共サービスとしてまったく合格点だと思います。
 外国人労働者や低所得者層に対し「インフラにフリーライドしている」という指摘がありますが、乗りたくもない高級インフラを掴ませて「金払え」では、押し売りでしょう。NHKの集金じゃないんですから。

 いきなり個人的な生活臭い話になりますが、なるべくハッピーに暮らす家計のコツは、
1 定期的に出て行くお金を減らす
2 定期的に入ってくるお金を増やす
 だと信じています。
 このうち特に2は、そんな簡単にできるくらいなら苦労しないので、具体的な実現方法についてはちょっと脇に置いておいて頂きたいのですが、1で言いたいのは、月々払う携帯代だの家賃だのといった部分を、とにかく圧縮する、ということです。
 まったく当たり前のことなのですが、月々出て行くお金というのは、少額でも溜まり溜まって大きなお金になりますし、何より楽しくない。
 例えば、7万円でパーッと豪遊したら「うわーお金使ったわー」という実感がありますが、家賃に7万振込んだからって、別にウキウキしたりしません。むしろ、ただ住んでいるだけなのに7万も取られてムカムカするくらいです。
 定期的にお金を取られる恒常的なサービスというのは、慣れてしまえばちっとも嬉しくないのに、お金だけは確実に取られます。逆に、多少品質が悪くても慣れれば勝ちです。その倹約した分を実感できる使い方に回した方が、全体としてハッピーだと思っています。

 何が言いたいかというと、インフラという「月々出て行く」系にお金をかけすぎると、コストがかさんでいる割にハッピーが実感できない、ということです。
 日本のインターネット品質の素晴らしさは特筆に値しますが、毎日毎日「インターネットはえー! 最高!」とか喜んでいる人はいないでしょう。本当はすごく恵まれたことなのに、あんまり得した気持ちになれない。なんだか損です。

 つまり、インフラ的な「社会の共有基盤」が高い方で固まってしまと、
1 落ちる先がない。貧乏なりの生き方が辛い
2 慣れちゃうからあんまり幸せじゃない
 という問題があります。
 これに加えて、
3 そのインフラがない状況に極端に弱くなる
 という問題があります。
 これが二つ目に紹介した日本の良さが若者をダメにするという話題につながってくると思うのです。

 日本の若者は自分の国の良さをちゃんと理解していない。日本の本当の素晴らしさとは、自動車やロボットではなく日常生活にひそむ英知だ。
 だが日本と外国の両方で暮らしたことがなければ、このことに気付かない。ある意味で日本の生活は、素晴らし過ぎるのかもしれない。日本の若者も、日本で暮らすフランス人の若者も、どこかの国の王様のような快適な生活に慣れ切っている。
 外国に出れば、「ジャングル」が待ち受けているのだ。だからあえて言うが、若者はどうか世界に飛び出してほしい。ジャングルでのサバイバル法を学ばなければ、日本はますます世界から浮いて孤立することになる。「素晴らしくて孤独な国」という道を選ぶというのであれば別だが。


 この記事で指摘されている通り、日本の公共サービスや交通インフラは尋常ではなくレベルが高いです。
 でもそのレベルの高さに慣れすぎてしまって、それが失われた状況に極端に弱い。しかも、慣れ切ってしまっているから有難味も感じられず、あんまりハッピーじゃない。損です。
 日本の技術の「ガラパゴス化」などが指摘されていますが、ガラパゴスと言うなら、この「インフラの異様なレベルの高さ」こそが、最も「特殊日本的」なのではないでしょうか。ガラパゴスというより、温室か実験室のようです。普通の国なら武装したゴリラみたいなのに囲まれている「守られた楽園」が、日本全体に広がっているのです。

 繰り返しますが、インフラのレベルの高さそのもの、格差の小ささそのものは、悪いことのわけがありません。
 でも、あんまり高いレベルのサービスを無限定に提供してしまい、「レベルの低いサービス」を根絶やしにしてしまうことは、息苦しくてしかも融通が効かない社会を作ることにもつながってしまうのです。
 格差を肯定し公共サービスを縮小する方向でものを考えるのは、平等を重んじたいムスリマとして心苦しい部分もあるのですが、多分、現実的でハッピーな平等というのは、実際にある様々な格差を一旦認めた上で、「貧乏は貧乏なりに」「ダメはダメなりに」生きていける、ということのようにも思えます。

 一方で、今ひとつ懸念もあって、もしそのように格差をある程度肯定し、多様で緩い日本を作ってしまうと、今まで「均一高品質」「単一民族幻想」が取り柄だった日本から、全然長所がなくなってしまうのではないか、という気もします。日本の何がすごいかといったら、この異様な均質性であって、これを前提にするからこそ、軍隊のように管理された合理的な生産活動が可能だったのです。
 裏を返せば、「均一高品質」なんて、所詮賃金奴隷をこき使うのに便利なだけで、実のところ皆んなを幸せにするものでもない、と言えるし、一周回って多少日本の競争力が落ちても、インフラをヘボくして細々やっていく方が、心理的にはハッピーな人生が送れる可能性もかなりあると思いますが。
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日本  インフラ 

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  1. インフラはほどほどにしとけ|2010/04/08(木) 11:39:07|
  2. 試論・雑記

サミットのアラビア語

 最近は数カ国語で書かれた案内板なども珍しくありませんが、アラビア語はあまり見かけません。
 そんな中、スーパーのサミットにはアラビア語が併記された表示があります。でも、そのアラビア語がちょっとヘン。
サミットのアラビア語

 言いたいことは分かりますが、これは
تعمل كاميرة مراقبة هنا
 だけでいいでしょう。

 ちなみに貧乏人の味方ダイソーの商品もアラビア語表示がかなりの割合で併記されていますね。あれはアラビア語圏に商品を輸出しているのでしょうね。
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アラビア語 

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  1. サミットのアラビア語|2010/03/28(日) 17:50:16|
  2. 試論・雑記

ミシャーリー・アル=アファーシーとマフムード・アル=フサリー

 以前はمشاري العفاسي(ミシャーリー・アル=アファーシー)さんのクルアーン読誦をよく聞いていたのですが、最近友人の薦めもあってمحمود الحصري(マフムード・アル=フサリー)さんの読誦を聞くようになりました。
 二人ともقارئ(カーリゥ、reciter)として著名な方ですが、アル=アファーシーさんは1976年生まれのクウェイト人、アル=フサリーさんは1917年エジプトのタンタ生まれ(1980年に亡くなっています)と、出身も時代も違います。
 二人の読誦の風格は非常に異なり、アル=アファーシーさんがコブシが効いていて節の大げさな読み方をされるのに対し、アル=フサリー師は淡々とゆっくり読み、エジプトの夏の昼下がりのように、ぬぼーっと時間がのっぺり滞っているような存在感があります。
 タジュウィード(クルアーンの正しい発声法)の素人なので詳しいことはわかりませんが、エジプトで主流のタジュウィード的にはアル=フサリーさんの方が規範として適切だそうです。確かにゆっくりしていて分かりやすいです。
 反面、アル=フサリーさんはクセがなく淡々と読まれるので、「音楽的」な耳への残り方はしにくいです。「音楽的」になるのはクルアーン的には良くないことなので、プラス評価されるべきなのでしょうけれど、聞いていて自然に覚える、という意味ではアル=アファーシーさんの方が楽です。ただ、節回しのメロディーだけが残ってしまい、肝心の内容が覚えられない、というのはありますが・・。
 アル=アファーシーさんの読み方がクウェイト式なのか単に彼の個性なのかよく分かりませんが、印象としては非常に現代的です。実際、テレビなどにも登場する大人気のカーリゥです。若くてイケメン(笑)。
 タジュウィードに良い、ということでアル=フサリーさんを聞いていますが、自分の練習のために一節ずつキチンと聞く時は良い一方、テキトーに流しっぱなしにしているならアル=アファーシーさんの方が覚えやすいなぁ、と、悩ましいです。
 これは想像ですが、おそらくアル=アファーシーさんは個性も人気もあって現代的な読み方をする方なので、「あれでは音楽だ」みたいな批判もあるのではないでしょうか。それもよく理解できます。一方、取っつき易いのも事実で、アラビア語がまだ全然分からない身近な人に聞き比べさせても「こっちの方がいい」と言っていました。
 難しいですね・・。

 ミシャーリー・アル=アファーシーさんのファーティハ。


 マフムード・アル=フサリー師のファーティハ。


محمود خليل الحصري - ويكيبيديا، الموسوعة الحرة
مشاري راشد العفاسي - ويكيبيديا، الموسوعة الحرة
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イスラーム  クルアーン  アル=アファーシー  アル=フサリー 

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  1. ミシャーリー・アル=アファーシーとマフムード・アル=フサリー|2010/03/24(水) 08:56:06|
  2. 試論・雑記

少数派だからこそ社会にコミットせよ

 某所に某先生のお話を聞きに行く。
 聴衆はほとんど男性で、女性は六名のみ。男性の日本人率は2割くらいでしたが、女性は六名中四名日本人で、うち一名は非ムスリム。
 「非ムスリム国におけるムスリムの責任」というテーマで、この中には非ムスリム国にムスリム国からやって来たムスリムも、その国で生まれムスリムになった者も含まれます。別段変わった内容が話されたわけではないのですが(講演中でもوسط中庸の重要性が取り上げられていたし)、一点面白いな、と思ったのは、「ムスリムになっても積極的に人々と関わり、社会にコミットしていきなさい」というアドバイス。
 欧米などの非ムスリム圏では、ムスリムになることで親兄弟と断絶してしまったり、ムスリムとの付き合いに引きこもり閉じてしまう人もいるそうですが、「それではダメだ、どんどん人と関わり、自分からその国の人々に尽くさなければならない」。

 エジプト人は「義を見てせざるは勇なきなり」の精神に充ち溢れていて、正直お節介すぎて鬱陶しいくらいなのですが(笑)、こういう「せざることの不義よりは、まず介入せよ」という倫理観は、単にアラブとかエジプトの気質というだけでなく、イスラームにも由来するものでしょう。
 間違いや傷つくことを恐れて何もしないくらいなら、多少自信がなくてもまず関わってみる、という方が称揚される空気がありますし、実際、何でもやってみると意外とうまくいったり、当初の目的は果たせないでも、わらしべ長者的に新たな展開が見えたり、ということはあるものです。
 自分に割と閉じてしまう性質があるだけに、胸に刻んでおきたいです。

 ちなみに、非日本人ムスリマ二名はチェコ人とアフガニスタン人で、このアフガニスタンの方との共通言語がフスハーで、とても面白かったです。喋るとエジプト方言になってしまうのですが、それは彼女には通じないので、頑張ってフスハーで喋ります。アラブ人なら、非エジプト人でもエジプト方言は大体通じるのですが、非ネイティヴ同士だとやっぱりアーンミーヤは使えませんね。
 どっちももっと勉強しないとダメダメなのですが・・。
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  1. 少数派だからこそ社会にコミットせよ|2010/02/25(木) 00:51:39|
  2. 試論・雑記

年寄りが多ければ年寄り臭くなる

 更新できていなくてすいません。プライベートでちょっとバタバタしていて、ブログまで手が回りません。
 そう言いつつ、どうでも良いことをちょっとメモしておきます。

 一つは免許更新のこと。
 エジプト滞在中に運転免許が切れてしまっていたのですが、「六ヶ月以内なら、うっかり失効でも問題なく更新できる」とどこかで聞いていたので、すっかり油断していました。確かに更新自体はできるのですが、「やむを得ない理由(病気・海外滞在など)」が終了して一ヶ月以内とその後では扱いが変わってくるのです。
 海外滞在中に免許が切れてしまった方は、帰国後一ヶ月以内には手続きした方が良いですよ。こんなのんびりしているのはわたしだけかもしれませんが。

 失効後だと、運転免許試験場まで行かなければならないのですが、運転免許試験場というのは、どこの街でもマージナルな場所にあって、ヤンキー臭いです(笑)。しかも警察系のお役所ですから、無愛想で辛気臭いのが基本です。
 以前に更新した時は、この荒んだ空気がイヤだったのですが、モガンマア(カイロの総合庁舎)のカフカ的迷宮を経験したためか、日本の「お役所仕事」が素晴らしくスピーディかつフレンドリーに感じられました。警察の人がニコニコしてるよ!
 ヤンキーだって、日本のは可愛いものですよ。全然平和的だし、黙っていれば何も構ってこないし、めちゃくちゃ紳士じゃないですか。いやまぁ、ヤンキー的階層の人々というのは、見た目と違って結構礼儀正しくイイヤツなことが多いのですが。

 このお上品さを眺めていて、更に連想が進みます。
 日本人は総じて「お上品」です。悪く言えば元気がない。エジプトから帰ってくると「病気なんじゃないか」と思うくらい覇気がなく、こっちまで寂しい気持ちになってきます。日本人のわたしですらこうですから、日本で働いているエジプト人は、寂しくて仕方がないことでしょう。
 日本だって少し前までもっとヤンチャでテキトーだったはずです。こんなお上品で元気のない国になったのは、豊かさの引き換え、というのが普通の解釈かもしれませんが、同時に少子高齢化ということも関係している気がします。
 これらは互いに相関的なので、どちらが卵とも言えませんが、識字率が上がり女性の社会進出が進み、子供の数が減り教育コストがあがると、その国は近代化し大抵は豊かになり、やがて「年寄りの多い世界」を迎えます。
 何となく今まで、豊かになって教育水準が上がり子供一人一人にやたらに手間がかけられるようになった結果、子供がお上品になり若者が「欲しがらなく」なった、というイメージがあったのですが、同時に「年寄りが多い国」だから、みんな「年寄り臭くなった」と思えてきました。
 比較的高齢な両親の子供は、小さい頃から妙に落ち着いていることがあります。人は語らいの中に産み落とされ、周囲の空気で育つものですから、年寄りが多ければ子供も若者も年寄り臭くなる、というのはあると思います。
 逆に、エジプトなどは「子沢山」社会ですから、ジジババまで妙に元気があるのかもしれません。元気がないジジババはジジババに達する前に淘汰された、とも考えられますが(笑)。

 「若者の車離れ」とかいうベタなネタをオヤジが出し、「単に金がないからだ!」と若者世代が批判する、という風景をネット上ではよく見かけます。また「不景気なせいで若者が安定志向になっている」というのも、紋切型の語りです。
 それはそれで当たっているところもあるのでしょうけれど、同時に「国全体が年寄り臭くなっているから、ものも欲しがらないし、挑戦志向もなくなった」という面もあるように思います。
 もちろん「年寄り臭い」というのは悪いばかりではないですし、静かでお上品で余計なことをしない、とも言えます。
 「年寄り臭く」なれない性格の若者は、この国では不幸でしょうけれど、イヤなら出ていけばいいのだから問題ありません。
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  1. 年寄りが多ければ年寄り臭くなる|2010/02/09(火) 00:09:22|
  2. 試論・雑記

ラッパーを壊せ、トロければ待て、お節介になれ

 ルクソールで知り合った在エジプト日本人の方からのメールで、「日本に帰ると、日本の便利さに感動すると共にエジプト人の性格を懐かしく思う」ということが書かれていました。
 この気持ちはよく理解できますが、単なる「離れて想う郷愁」だけではありません。

 わたしのエジプト滞在は(まだ)わずか半年でしたが、帰ってきて感じたのは「静か」「清潔」「空気が綺麗」「何でもスムーズに行く」「会話しないでも何でもできる」ということです。
 これらはもちろん、基本的に良いことなのです。一々値段交渉しないと乗れないタクシーより、メーターが勝手に上がっていく方が楽に決まっています。
 そういう「交渉したりコミュニケーションをとらないでも済む便利な仕掛け・インフラ」が、日本では極度に発達しています。
 休みの日の台詞が、コンビニで「袋いいです」だけだった、なんて余裕でありそうですし、仕事に行っても「おはようございます」「お疲れ様です」「お先に失礼します」の三つしか台詞を言わなかった、という人もいるでしょう。

 便利な半面、これはちょっと病的な状況であって、おそらくはこういう便利さのせいで、「コミュニケーション力」とかいう気持ち悪い概念が流通するようになったのです。
 「コミュニケーション力」って何ですか。コミュニケーションって、RPGの「すばやさ」みたいに力を測るものですか。単位はグラム? メートル?
 コミュニケーションなんて、基本的にはカイロのタクシー値段交渉みたいなもので、鬱陶しいものです。どこの世界でも偉い人は簡単にシモジモと口をきいたりしないでしょう。権力を使ったりお金を払ってコミュニケーションを回避しているからです。それくらいコミュニケーションはウザいものなのです。
 でも、そのウザいコミュニケーションを取らないと立ちいかない場面というのがあって、エジプトでは日本の一万倍くらい「人間の壁」が立ちはだかっています。「ホンマは話なんかしたくないんやけど、このオッサンどかさな何ともならんわ」とかいう状況で、口八丁手八丁で話を始めて、結局目的は達せられなかったけれど、予想外のものが手に入り、別の人間を紹介してもらって、と、わらしべ長者的に進んでいくのが人の世というものです。
 コミュニケーションは止むに止まれぬもの。そして日本の気持ち悪いところは、みんなの願い「コミュニケーションの回避」が、非常に高いレベルでインフラとして出来上がってしまっていることです。

 ところが、幸か不幸か日本の経済はこのところ可哀想な状況を行ったり来たりしています。せっかくですから、これをプラスに考えて、思い切り人件費を下げて、何でも人力でやってみたら面白いじゃないですか。
 仕事のない若者だけでなく、高齢者を「人力システム」で使っても面白いです。自動販売機の前になぜかおじいちゃんが座っていて、おじいちゃんに頼まないとジュースが買えない。しかもおじいちゃんは耳が遠いし、自販機の操作もめちゃくちゃトロい。でも、勝手にジュース買ったら杖で殴られる。素晴らしい。
 ちなみに、こういう「自動販売機操作係」という職は、エジプトに現実に存在します。「食堂のトイレの前で立っていて、トイレに入る人にトイレットペーパーをちぎって渡す係」という仕事もあります。
 こんなことが実現すれば、それはもう、毎日恐ろしくウザいコミュニケーションの連続になるでしょう。その代わり、神経症とか欝とか自殺は、圧倒的に減るでしょう。喧嘩と交渉が忙しくて、死んでる場合じゃありません。
 企業の面接で「コミュニケーション力」が問われることもありません。なぜなら、「コミュニケーション力」のない人間は、就業年齢に達する前に淘汰されて死んでいるからです。

 こういう世界では、他人のトロい動きや話の通じなさに怒ってはいけません。
 超キレキャラのわたしが言うのも何ですが、日本人は非常に怒りっぽいです。そう言われると意外でしょうし、実際日本の街中ではエジプトの一万分の一も怒鳴り声がありませんが、それはただ単にインフラや社会秩序がスムーズに動いているからです。ちょっと秩序から外れたり、思い通りに他人が動かないと、日本人は本当にすぐ怒ります(わたしもそうでした)。これはエジプト人に何度か注意されたことです。
 待ちなさい。
 待っていれば、そのうちうまく行きます。
 ちなみに、これは「スルー力」というヤツとはちょっと違います。スルーはしません。意見が違えば、自分の考えは激しく主張する。
 そうではなく、他人が「機械のように正確に動く」ことを期待しない、ということです。

 日本の発達した秩序というのは、要するにトロくてテキトーな人間のラッパーが出来上がっている、ということです。
 例えば、交通秩序。
 エジプトの交通カオスは有名で、そもそも信号がほとんどありませんが、あっても無視されるし、巡査が立っていてもクラクションの嵐だし、逆走上等な上、しょっちゅう路上で車を修理していたりします。
 ですから、仮に信号があっても、信号なんて見て道を渡ってはいけません。見るのは車であり、運転者の心です。
 これに慣れてしまったので、日本に帰ってきて、逆に危ない思いをしました。信号を見なくなっているのです(笑)。せっかくラッパーがあるのに、車とか人間とか、低水準のAPIを直接叩いてしまっている状態です。
 ラッパーは素晴らしい。直接叩いちゃダメ。
 それは間違いないのですが、一方でラッパーに慣れきって依存してしまうと、何かでシステムが上手くいかないとすぐパニックに陥ってしまいます。ラッパーは良いのですが、依存してはいけない。

 だから「システムは大事だけれど、当たり前だと思わず、常に人間を見ましょう」と言えば、体の良いまとめ方なのですが、本当のことを言えば、そんな高尚な目標はほとんどの人間には達成不可能でしょう。便利で楽な仕掛けがあれば、どっぷり浸かってなしではいられなくなるのが人というものです。
 ですから、敢えて狂ったことを言いましょう。信号を見るな。システムを見るな。法を見るな。人を見て、クールに道を渡れ。
 多分、今の日本に一番必要なのは、そういうことです。
 「システムの有難味を忘れるな」なんてお説教、生まれた時からシステムに浸かりきっている人間に通用するわけがないじゃないですか。
 だから、システムは見ない。というか、ぶっ壊せ。
 まぁ、このまま日本が沈没していけば、放っておいてもメンテ力がなくなって、システムなんて勝手に壊れると思いますけれど。

 最後に、大事なのはお節介ですね。
 つい先日、古い友人から、わたしが直面している社会的な些細な問題について、アドバイスを頂戴できました。わたしは世の中的な仕組みやお役所システムみたいなものに極端に弱く、非常にクヨクヨ悩んでいたのですが、彼の一言で「言われてみれば、大したことじゃないな」と気持ちが軽くなりました。
 彼は別に、100%の確信があってアドバイスをくれたわけではないと思います。でもとりあえず、言ってみる。これが大事。
 根拠の欠片もないのにテキトーなことを断言するのは、確かに良くないことです。多くのエジプト人は、とてもよろしくない(笑)。
 でも、現代日本人の多くは、ちょっと慎重すぎます。セキュリティ・パラノイア。
 世の中100%なんてないんですから、ちょっと怪しくてもとりあえず言っちゃえばいいんですよ。お節介で行きましょう。
 間違ってたら謝ればオッケーです。
 そして間違った人に怒ってはいけない。むしろ、間違ったことでも言ってくれたことに感謝しなければいけません。
 一番悪いのは、情報が間違っていることではなく、情報が無いことです。
 多少怪しくても声をかけてくれた人には感謝しなければならないし、彼または彼女を遣わせてくれた主に感謝すべきだし、自分もお節介にならなければなりません。

 お節介を阻む最大の障害は、「照れ」でしょう。
 照れ屋さんは素敵です。少なくともわたしは結構好きです。でも、時には照れを捨てなければなりません。
 彼への返信で、わたしはこんなことを書きました(一部改変)。
 「(・・・)」と言われて安心した、元気が出た、って書いたけど、正にそういう感じが、日本にはなくて、エジプトにはあるの。
 単にわたしが寂しがりで気が弱いだけかもしれないけどね。
 こういうの、ちょっと言ってもらえるだけで、何でもできる気がしてくる。
 日本人は、薄情なんじゃなくて、照れ屋さんなんじゃないかな。照れてこういうこととか、「確証ないくせに自信たっぷり」なことを言わないけど、照れちゃだめだと思う。
 照れてないで、ガンガン介入しようぜ!

 栄えるも良し、落ちぶれるも良し。
 落ちぶれたら落ちぶれたで、お節介でトロい日本になったらいいんじゃないですかね。
 いずれ主に召される日、良きヒサーブ(善悪カウント)を授かれるよう、精一杯生きればそれでいいじゃないですか。

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  1. ラッパーを壊せ、トロければ待て、お節介になれ|2010/01/26(火) 19:19:32|
  2. 試論・雑記

エジプト方言の慣用句・ことわざ

 前回に続き、Kallimni 'Arabi Fi Kull Haagaにあったアラビア語エジプト方言の慣用表現とことわざ。

بيطول الرقبة
(相手がわたしの)首を伸ばす
(相手のお陰で)鼻が高い、(相手を)誇りにしている

بيرفع الراس
(相手がわたしの)頭を上げる
(相手のお陰で)鼻が高い、(相手を)誇りにしている

بيفرح القلب
(相手がわたしの)心臓(魂)を喜ばせる
(相手がわたしを)喜ばせる

بيكسر القلب
(相手がわたしの)心臓(魂)を壊す
(相手がわたしを)悲しませる

بيفتح النفس
(相手がわたしの)魂を開く
(相手がわたしを)心を開く、欲望を刺激する、目を惹く
 نفسي مفتوحة(わたしの魂が開かれた)は、ご馳走を前にした時などに使われる表現。

وشك وللا القمر
あなたの顔か月か
あなたはとても珍しく、美しい(ここでの月は満月のこと)

مافيهاش صريخ ابن يومين
幼子(生後二日の子供)の泣き声もしない
閑散としている

ابنك على ماتربيه
あなたの息子はあなたがどう育てるかにかかっている
(文字通り)

عاش من شافك
再会から生きる
ずっと会っていない、久しぶりに会えて嬉しい

أنا وأخويا على ابن عمي وأنا وابن عمي على الغريب
わたしとわたしの兄弟は従兄弟に対峙し、わたしと従兄弟は他人に対峙する
外敵が来ればまとまる

اكفي الفدرة على فمها تطلع البنت لأمها
壺を口まで満たし、娘は母のようになる
子は親に似る(前半は語呂合わせで意味はない)

يصطاد في الميه العكرة
濁った水で釣りをする
使えるものは何でも使う、がめつい

اللي يقول لمراته ياعورة تلعب بيها الناس كورة
妻に「めくら」と言えば、皆がその妻を球のように遊ぶ
身内の扱いが悪ければ、他人も悪く扱う

اللي يقول لمراته ياهانم يقابلوها على السلام
妻に「お嬢様」と言えば、皆が会って挨拶する
身内の扱いが良ければ、他人も良く扱う

اللي تفتكره موسى يطلع فرعون
ムーサー(モーセ)だと思っていたらフィルアウン(ファラオ)だと分かる
良い人だと思っていたら悪人だった、人を見る目がない

العين بصيرة واليد قصيرة
目は見、手は短い
見ているだけで買わない、お金がない(قصيرةはエジプト方言ではカシーラではなく「ウサイヤラ」と発音しますが、ここは語呂を整えるのに「アシーラ」と読みます)

لسانك حصانك إن صنته صانك وإن هنته هانك
あなたの舌はあなたの馬、世話をすれば世話をしてくれ、疎かにすれば疎かにされる
舌は災いのもと(リサーナック・フサーナックと韻を踏んでいる)

اشتري الجار قبل الدار
家の前に隣人を買え
家そのものよりご近所さんが大事

الرجل تدب مطرح ماتحب
脚は好むところで足踏みする
人は好きなことをするもの

على قد لحافك مد رجليك
布団の大きさにあわせて脚を伸ばせ
身の丈に合った生き方をしろ
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  1. エジプト方言の慣用句・ことわざ|2010/01/23(土) 11:42:08|
  2. 試論・雑記
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Author:ほじょこ
アラビア語修行にエジプト留学して帰国。翻訳やっています。お問い合わせは下のフォームから御気軽に。

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