水曜日、家を出て歩いていると、ヒシャームという男にナンパされる。
こんな自宅近くでは初めての体験です(前に小学生が突然メールアドレスを押し付けてきたことはありますが・・)。数々のナンパ避け対策のお陰でディフェンス度があがっていて、ちょっと久々でした。街中でもないし、いい加減近所には顔が知れているはずなのに、呆れるというか笑えてきます。
携帯を三つも持っていて「石油技術者」で、最初「アルメニア出身」と言っているように聞こえたのですが、名前から顔つきから言葉から、どう考えてもアラブ人です。どこかの都市名と聞き違えたのでしょうか。
結構イイ男でした(笑)。最初「エジプト人か?」と声をかけてくれたので、勝手に評価を上げておきます。
F女史との授業で、合間にまたイスラームについての話題になる。
彼女のような「話の通じるムスリマのエジプト人女性」という稀有な存在にしか聞けないことが色々あり、際どいところまでツッコんで相談に乗ってもらいました。
常々感じている「ボーンムスリムでないことの重み」「ムスリム少数派の国独特の問題」を、率直に話してみる。「選べる」ということは、「選べない」ことより時にしんどいです。
また、日本で暮らすとどうしても「ムスリム代表」な扱いを受け、ちょっと粗相があると「これだからイスラームは」という話になり、非常に面倒臭そうです。実際のところ、ムスリムだろうがキリスト教徒だろうが色んな人がいるわけで、そんな聖人君子のような人ばかりだったら、イスラーム世界に戦争も犯罪もありません(笑)。まったく当たり前の話なのに、日本国内だと通用しなさそうで、その苦難を越えて日本で生活しているムスリムの方々には頭が下がります。
ちなみに、同じ「在日ムスリム」と言っても、日本人と外国人では意味が違います。外国人には外国人の辛さが沢山あるでしょうが、外国人なら許されることでも、日本人ムスリムだと通らないことが沢山あるはずです。
例えば、エジプト人ムスリマの女性がヒジャーブで会社に行っても「外国の人だから」とスルーされる可能性が高いですが、日本人ムスリマが同じことをしたら「日本人なのに何やっているんだ」と実に意味不明な面倒くさい状況になるのが容易に想像できます。
彼女が言った「名前だけのイスラームというものはない」というのが、とても印象的です。
日本人に限らず、信仰が形骸化した先進諸国の間では、信仰と言えば「内面」の問題だと思われがちですが、「内面」だけのイスラームなどというものは成り立ちません。「内面」が最重要なのは当然ですが、「内面」があれば「外面」もついてきて当然、という前提があります。
これはイスラームは元より、信仰というものについて考える上で、非常に重要なポイントです。
「外面」が一切要らないような強靭な人間なら、多分信仰そのものが要りません。そして多分、そんな果てしない強さを持った人間など、この地上には数えるほどしかいないはずです。
図書館でNちゃんと勉強する。
日本語について質問されてばかりで、自分の勉強が今ひとつはかどらない。
某アラビア語単語集を一緒に眺めていて「家の中のもの」のページに「مائدةマーイダ(テーブル)」という単語があるのを「マーイダって一度も使ったことない。タラベーザしか言わないよね」と笑う。أريكةアリーカ(長椅子)とかも、絶対「カナバ」としか言いません。
単にフスハーとアーンミーヤの違いなのですが、こういう身の回りの品の名前は、書き言葉で使うことが余りないし、新聞でテーブルの話題が出たのも見たことがありません。政治やら経済の用語はフスハーでよく使うわけですが(というか別にアーンミーヤでも変わらない)、「身近なもの」のフスハーの単語というのは、本当に使う機会がありません。
まぁ、「マーイダ」くらい、全エジプト人とアラビア語学習者が知っているでしょうし、日本語にも「みんな知ってるけど全然使わない」単語なんて山ほどありますから、こういうものなのかな、と思っておきますが。こういう知識は割りと好きですし(笑)。
シリアなんかでは「マーイダ」って言うのでしょうか。
アメ大書店がセールで、F女史と待ち合わせ、Nちゃんと一緒に行く。
アーンミーヤの辞書を買おうと思っていたら、売り切れでナシ。アメ大図書館は素晴らしいのですが、英語の本がほとんどで、エジプトの本屋さんとは思えません。ちょっと寂しいです。
木曜日。
授業の休憩中、疲れたので廊下で手足をブラブラさせて、小手先で型分解みたいなのをしていたら、学校の子にウケる。武道歴があるとネタにできて便利ですが、男の人だと「じゃあ本当にやってみよう!」とかなって、命がいくつあっても足りないかもしれません(笑)。やっぱり折り紙の方がいいですね。
授業のあと、マクタバ・シュルークでいくつか小説と辞書を物色。お財布が寂しくて、とりあえず保留にして帰る。
マクタバ・シュルークはタラアト・ハルブ広場にある本屋さんで、最初の頃は単に「綺麗な本屋さんだなぁ」と思っていたのですが、版元でもあるエジプトで重要な本屋さんなのだと後にわかりました。
ここはアラビア語と英語が7:3くらいで、流行の本ならアラビア語と英訳を一緒に買うこともできます。夢のような空間で、時間がどんどん過ぎて行きます。
ARAB SHORTS.NET という、アラブ圏のインディペンデント映画祭を見に行く。各国のVJが数作品ずつ紹介する形。とりあえずエジプトの回を見ました。
訳あってインディペンデント映画には大変馴染みが深いのですが、全般にレベルが高くて驚きました。エジプト作品は、一作品のみビデオ、他はフィルム(16ミリのはず)。実験系の映画が多いですから、内容的に意味不明がちなのは万国共通で良いとして、技術的にどれも一定の水準に達しています。また、実験映画でも劇映画的手法を多用するものが多い印象を受けました。
نادين خان واحد من مليون
ナーディ・ハーン「ワーヘド・フィ・ル=ミリユーン(One in a Million)」
ビデオ。深夜零時前後のカイロの風景が、いくつかの場面で並行的に描かれる。実験色強。
شريف البنداري صباح الفل
シャリーフ・イル=ビンダーリー「サバーフ・ル=フッル(Rise and Shine)」
女性の一人芝居(正確には赤ちゃんも出演)で、場面もアパート一室のみ。
朝、子供を連れあわてて支度をして仕事に出ようとする女性が、鍵を見つけられず、昨晩帰ってきた場面を再度演じてやっと思い出し、とうとう出かけようという時になって、金曜日(休日)だと気付く、というお話。かなりよくできている。
「サバーフルフッル」というのは、ちょっとおどけた朝の挨拶でよくあります。「サバーフルアサル」と返したりします。
محمد ممدوح الآتي
ムハンマド・マムドゥーフ「イル=アーティー(Next)」
男子を欲しがる農村の家父長的風景。今ひとつ内容わからず。
هديل نظمي الأسانسير
ハディール・ナズミー「イル=アサンセール(Elavator)」
エレベータに閉じ込められた女の子のところに、間違い電話がかかってきて、エレベータから助け出す代わりに色々質問する男に、少しずつ惹かれていくお話。女性の一人芝居で場面もエレベータの中だけですが、飽きません。電話しながら髪をほどいて結いなおす感じとか、すごくイイです。
محمد حماد سنترال
ムハンマド・ハマードゥ「セントラール(Centraal)」
電話局(公衆電話がいくつも一つの部屋に並んでいる電話屋さんのような感じ)で客の会話を盗み聞きする店番女性。こういうお店は、うちの近所にもありますが、携帯が普及してさすがに斜陽産業のようです。
محمد محسن رقم قومي
ムハンマド・ムフシン「ラクム・カウミー(ID Number)」
ある日突然「誰からも見えなく」なってしまった男が、最後に自殺し、その瞬間に周りから見えるようになる、というお話。割とクラシックなネタ。
ほぼすべて英語字幕付きですが、その字幕が大文字小文字乱用だったり、タイトルの訳自体が本編の中だけで二種類あってさらにパンフレットと相違していたり、エジプトらしいです。
商業映画もインディペンデント映画も、エジプトは大変水準が高いのに、あまり日本で紹介されていなくてもったいないです。
ハトシェプスト女王葬祭殿遠景 posted by
(C)ほじょこ
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テーマ:エジプト - ジャンル:海外情報
名前だけのイスラームというものはない、エジプトのインディペンデント映画 |2009/12/12(土) 07:30:41|
エジプト留学日記
F女史の誘いを受け、ザマーレクのEl Sawy Culturewheel でイスラーム関係の映画を見る。
ザマーレクはまだ三回しか行ったことがないのですが、本当に異様なまでに綺麗で安全なところです。治安については、エジプトはどこでもかなり良いのですが、女一人で歩いているとバカとかガキとかエロオヤジとかが毎分三人くらいで絡んでくる、という風景がありません。外人慣れ仕切って、誰がどんな格好で歩いていても無関心です。そこそこの距離を歩いたのに、全然ストレスになりませんでした。
会場に到着すると、入り口が頑丈な柵の二重扉で、周りで大量の機動隊が盾を持って構えています。
「イスラーム主義者の台頭を恐れる権力の圧力か!?」と思ったら、アルジェリア大使館が近いための警備でした。学生運動が僅かに生き延びている奇特な大学にいたので、こういう睨めっこ風景は割と懐かしいです。
実際、クラクションを鳴らしまくる車、旗を振って叫ぶ若者が大勢います。エジプト人がこんなに一致団結している姿は、他で見たことがありません(笑)。
会場は、ナイルのほとりの夢のように美しい施設。
イスラーム関係のイベントといっても、窮屈でお説教くさい雰囲気はまったくなく、かなりオシャレです。
El Sawy Culturewheel posted by
(C)ほじょこ 映画上映とその後の質疑応答、という構成で、今回は「非イスラーム圏の外国人にイスラームを知ってもらう」ことが目的のイベントだそうで、映画は英語音声・ドイツ語字幕でした(回によって言語は異なり、日本語の時もあった模様)。質疑応答も、全部英語で行われていました。
でも、観客の半分以上はエジプト人(多分ほぼすべてムスリム)で、後は欧米系と、ブラックアフリカ系と思われる数名がいただけで、アジア系はわたし一人でした。
質疑応答に応じた先生が「どんな質問でも大歓迎だよ! アルジェリア人でも暖かく迎える!」とジョークで場を和ませます。飲酒を巡る質問が出た時は、「エジプトとアルジェリアの件も、酒を飲んで喧嘩しなかっただけまだ良かったね」というネタが出ました。ついでにサッカーを禁止する預言が下っていたら、もっと良かったんですけれどね。
内容自体は、別に目新しいものではなく、特に「イスラームは科学的」みたいな正当化を図る部分は、個人的にはかなり嫌いでした。近代科学を持ち出して「クルアーンのここが科学的!」「イスラームは近代科学によっても素晴らしさが証明される!」みたいな持っていきかたは、インチキ臭くなるだけなので、やめて頂きたいです。
映像は綺麗だし、わたし個人は多少なりとも勉強していて極めてイスラーム寄りの人間なのでまだ好意的に見られますが、こういう「イスラームは素晴らしいよ」な映画を見せられたからといって、反イスラーム的な人々が考えを変えるとも思えないし、むしろ「自画自賛しやがって、ケッ!」と反感を煽るのがオチな気がします。というか、そういう人はそもそもこんな映画見ないでしょう。中間くらいで判断保留している人が見ても、これでイスラーム側に転ぶとは思えません。
とはいえ、対象が対象だけに、「良いところもある、悪いところがある」という言説は構築しにくいのも事実です。
信仰について、他の文化圏との軋轢を避けるには、個々人のレベルで触れ合うしかないのではないでしょうか。たとえその信仰プロパーを受け付けないにしても、個人と個人で相対すれば、かならず共有部分、共感できる面というのがあります。「この人はわたしの嫌いなイスラームを信じているけれど、アニメの話が通じる! 全否定しないで、様子を見てみようか」となれば、もう合格点です。
様子を見て様子を見て、五十年くらい時間を稼げは人間死にますから、そんな調子でノラリクラリと暮らせばいいじゃないですか。共存だの寛容だの、言葉面は綺麗ですが、実際のところは「こいつムカつくけど、とりあえず腹減ったから殺すのは明日にしとくか」程度のものでしょう。「明日こそ」とか言ってるうちに、ズルズル百年くらい「平和」が持ちこたえたりするものです。下手に肯定なんか迫らない方がうまくいくこともあります。
ある思想体系に対する価値判断というのは、顔をつき合わせて付き合う関係にあるうちは、全否定に転ぶ確率というのは、結構低いものですよ。というのは、百人嫌いな人間がいても、一人好きな人がいて、その人が当該思想体系をとても大事にしていたら、それだけで全否定にはブレーキがかかるからです。
その子の目を見て、全否定するような口はきけないでしょう。心のそこでは「それさえなければ」と思うかもしれませんが、とりあえず保留にして、積極的否定には走らないのが普通でしょう。それで十分です。
少しだけテロとジハードの話題が出て「次の講演ではジハードをテーマとする。そこでは、そもそものテロの定義についても考えたい」と仰っていました。
これも目新しさはないですが、この辺から話してやらないといけない欧米人も沢山いるだろうし、値打ちはあるのかなぁ、という印象。
講演の中でヒロシマ・ナガサキの名が触れられる。
ヒロシマ・ナガサキがアラブ世界で非常に有名なことについては、以前にも触れたことがありますが、この話題が出る文脈に割とよく居合わせるせいか、日本にいた時より、よく考えるようになりました。
生まれる遥か前の出来事なのに、時々沸々と怒りが沸いてきます。今でも劣化ウラン弾とかイラクで使っているわけですが、あいつらは。
ドイツ人の女性が一人質問していたのですが、彼女の英語がかなりヘタクソで、「海外に出るようなヨーロッパ人でも喋り下手な人がいるんだ」と、変なところで勇気付けられました(笑)。
で、なんと今回も、呼んだF女史とは会えずじまい。他の回に来たのかもしれないし、多忙で体調も崩していたので、来られなかったのかもしれません。
でも、前回のオペラの件といい、呼んでもらわなければ足を踏み入れる機会もない場を知ることができて、すごくラッキーでした。
全然関係ありませんが、帰りに近所で新しいマアラ(ナッツ屋)が開店していました。
マアラの開店 posted by
(C)ほじょこ 開店祝いなのですが、耳をつんざくような大音量でクルアーンを流しています。巨大スピーカーから、轟音ぶりを察して頂けるでしょうか。
こんなスピーカーをずっと置いているわけではなく、開店祝いのためにDJ(こういうAV機材一般をアーンミーヤ「DJ」という)を呼んでいるだけですが、それにしても尋常ではない音量です。ハムスターくらいなら殺せそうです。
建物の上には人も住んでいるのですが、流しているのがクルアーンなだけに、誰も文句は言えないでしょう。というか、彼らのノリだと、これくらいは別に迷惑に感じていないと思います。
テーマ:エジプト - ジャンル:海外情報
Discover Islam @El Sawy Culturewheel |2009/11/22(日) 02:11:53|
エジプト留学日記
カイロ・アメリカン大学(通称アメ大・・って、在カイロ日本人の間だけやん)の本屋さんが、新装オープンしました。
以前は北側の入り口から入ったところだったのですが、南西角の入り口入ってすぐが新書店です。
買い物もあったので早速行ってみたのですが、凄い!の一言。
アメ大新書店 posted by
(C)ほじょこ アメ大新書店二階から posted by
(C)ほじょこ 「ここはニューヨークですか」というくらい、キレイでカッコイイ本屋さんです。入り口はなんと自動ドア。エジプトに来て以来、自動ドアというものを見た記憶がないのですが、魔法のようです。ドアがね、勝手に開くのよ! どういうこと!?
日本基準で言っても、かなりオシャレで、ブックフェチにとっては天国のようなお店です。
ちなみに、ガードマンさんも、北門の人よりフレンドリーで、店員さんもオープンしたばかりのせいかニコニコしていて、「どう、新しい本屋さんは?」とかお喋りになりました。どうもこうも、最高ですよ!
エジプトの本の価格は、物価一般と比してかなり高いです。
古書店や路上で本を売る人も多いし、学生が本を全部コピーして使っている姿もよく見ます。
最近、日本の出版業界も厳しいようですが、本の値段はもっと高くて良いように思います。限られた人しか買わなくても良いじゃないですか。本なんて、昔は文化人しか読まないものだったはずだし、それくらいのノリで細々やるのも一手でしょう。一冊一万円くらいが相場になっても、わたしは買いますよ。
というか、今だって読む価値のある本は大抵安くはないし、やっつけで書いたみたいな新書本を読むくらいなら、一年中クルアーンだけ読んでいる方がマシです(それも厳しいか・・)。
F女史に面白そうなエジプトの現代小説を紹介してもらいました。「え、知らないの?」と言われたので、かなり有名らしいです。
علاء الأسوانيذ Alaa Al Aswany アラーゥ・アル=アスワーニーという作家の、شيكاغو Chicago シカゴと、عمارة يعقوبيان The Yacoubian Building イマーラ・ヤアクビヤーンという二本です。どちらも英訳はされていて、عمارة يعقوبيانは映画化もされています。
Wikipedia関連ページ:
Alaa Al Aswany The Yacoubian Building The Yacoubian Building(film) 英訳:
The Yacoubian Building Chicago: A Novel 『イマーラ・ヤアクビヤーン』(映画の日本語表記は「ヤコービエン・ビルディング」となっている模様)は、タラアト・ハルブ通りの実在のアパートを舞台に繰り広げられる人間模様を描いたもので、エジプトの政治腐敗なども取り上げられている、とのこと。
最近作の『シカゴ』は、アメリカに移住したエジプト人の物語で、エジプトがイヤでアメリカに同化しようとするものの、二つの文化的アイデンティティの狭間で苦しむことになる人物が描かれるもの。
こう書いていたら、前者についてはどこかで聞いた気がしてきましたが、どこだったかよく覚えていません。
特に『シカゴ』のテーマは個人的に興味を惹かれるので、購入してできたら私用翻訳してみたいです。現在の実力ではおぼつかないですが、まぁ気合があれば何でもできるでしょう。
誰かもう日本語訳に着手していないのですかね。誰もいないようなら、交渉して翻訳権取れないですかね。どこかの出版社さん、興味ないですか? 売り物にするなら、今のわたしじゃ全然役不足ですが。
映画も傑作らしいので、DVD探してみます。
ちなみに、يعقوبはヤコブのことで、英語ならJacobですが、英訳版のタイトルは建物名の固有名詞として、Yacoubianとしていますね。当たり前か。
オマケで、スーダンで行われたエジプト対アルジェリア第二戦前の盛り上がり動画。
ちなみにエジプトは負けました。
大きな声では言えませんが、負けてくれた方が静かで助かります・・・。
テーマ:エジプト - ジャンル:海外情報
アラーゥ・アル=アスワーニー『イマーラ・ヤアクビヤーン』『シカゴ』、アメ大の新書店 |2009/11/19(木) 10:22:50|
エジプト留学日記
9/25
起床し、ペンギン・ビレッジに併設されたマタアムでネスカフェを飲む。5ポンド。観光地価格です。
同じくペンギン・ビレッジ系列のネットカフェに入る。日本語環境があり、ブラウザはFireFox、1時間8ポンド。エジプトでネットカフェに初めて入ったので相場がわからないのですが、かなり高めだと思います。日記を二日分だけ書いて自分宛に送信し、ダーリンとお母さんにメール。
このネットカフェとホテルの従業員を兼ねている男の子の一人が、ペンギン・ビレッジ到着以来、しきりに誘っていました。お肌のツヤからして二十歳そこそこの若い子で、「こんな年増じゃなくて若い子沢山おるやん」と呆れてしまったのですが、わたしの指輪を見つけてからは「婚約してるのか、なんだよ、つまんねえな!」と引き際よく仲良くしてくれて、可愛らしくて好印象でした。
ダハブにはネットカフェが沢山ありますが、ほとんどは通り沿いで当然眺めなんてありません。無線LAN使い放題のカフェはもっと大量にありますし、海辺で自分のマシンで作業する方がずっと良いです。当初二日程度でカイロに帰ろうと思っていたので、マシンを持ってこなかったのを後悔しました。カメラのバッテリの充電器も置いてきてしまい、失敗しました。
バッサームの店に行くも、不在。またマタアムMEYA MEYAに戻り、ベジサンドイッチを食べる。なぜかこの日はあんまり美味しくなかったです。18ポンド。ペンギン・レストランでは、ベジサンドイッチが28ポンドと表示されていました(入ってないので内容は不明)。いずれにせよ、ビーチ沿いのマタアムはかなりお高い観光地価格です。
この日の日中は、ほとんどぼんやり読書をしたり、バッサームと一緒にテレビを見て過ごしました。ダハブくんだりまで来てテレビで映画を見ているのもバカみたいですが、勉強になるし、一緒にテレビを見るのって何だか和みます。
夕方になり、バッサームとわたしと居合わせたエジプト人二人で、ドミノを始める。ルール自体はシンプルなのですが、偶然の支配する要素が大きく、勝つ秘訣があるのかよくわかりません。
バッサームにベドウィンの言語について尋ねる。やはりベドウィンには独自の方言があるらしいですが、それ以上に、知り合ったアスワーン人が悉くベドウィンを毛嫌いしているのが興味深いです。
夕飯は大衆食堂のベジタリアン定食。10ポンド。
ダハブの大衆食堂 posted by
(C)ほじょこ ダハブの大衆食堂のベジタリアン定食 posted by
(C)ほじょこ 大衆食堂でもカイロよりは高いですが、そんなに無茶な価格ではありません。
この大衆食堂で、ムハンマドというエジプト人と相席になりました。ダハブで働いている人ではなく、観光客で、しかも一人で来ています。
ダハブへ一人旅をするエジプト人というのは、相当珍しい人種です。ビーチリゾートに遊びに来られる時点でお金持ちなのは間違いありませんが、純粋な遊びで一人で旅をしているエジプト人には初めて会いました。
ムハンマドはカイロで働くSE兼マネジャ。昨日に引き続いて同業者との邂逅でしたが、彼はエジプト人。気になるエジプトのITビジネスについて探りを入れる絶好の機会です。元々はjavaがメインの開発者だったらしいですが、実装から離れて久しいので「忘れてしまったよ」とのこと。これは世界共通です。
大衆食堂を出て、ビーチ沿いを散歩してから海辺のお洒落な店に入ります。完全にナンパモードで、今思うと、彼が一人でダハブまで来たのは外国人をひっかけるためではないかと思うのですが、下心はどうでもいいです。話して情報を得るキッカケができるし言語の訓練にもなるので、ナンパも時に便利です。下心はお互い様。
ビーチを散歩している時に、日本人らしい女性が地元イベントのチラシを配っているのに遭遇。英語で話していたので、日本人か韓国人か確信が持ていませんが、住民もしくは長期滞在者なのは確かです。脚の長い美人さんでした。
ムハンマドはユーロディズニーに遊びに行って二人の日本人と知り合いになった、とか話しているので、本当にリッチです。フランス語を趣味で勉強しているそうです。
わたしがフスハーの方が上手だと知ると、フスハーで話そうとするのですが、理系らしくあまり得意ではない様子。教科書を見せると「僕もこれが必要だな」と笑っています。
昨日のロシア人といい、理系男子はトーク上手ではなくて、それがかえって安心します。日本の理系男子はシャイすぎますが、エジプト人だと丁度良い感じになります(笑)。
以前にクウェイトで働いていたことがあるそうで「暑い?」と尋ねると「حارじゃない、نارだ」と冗談を言います(ハーッルは暑い、ナールは炎で、駄洒落になっている)。クウェイトにはクウェイトの方言があるそうですが、「本当のところ、みんな英語で話しているんでしょう?」と言うと「その通り」と笑います。湾岸は本当に英語使用率が高いようです。
話が性的な方向に流れそうになったので、こじれる前に断ってバイバイ。一般のナンパエジプト人のような強引さがなくて、かなり照れながら誘っていて、可愛らしい人でした。
バッサームの店に戻って、またテレビを見ながらのんびり。
サッカーをやっていたので「サッカー好き?」と馬鹿げた質問をすると、驚いたことに「嫌い」との返事。「エジプト人は全員サッカーが好きなのかと思った」と言うと「俺はピンポンとビリヤードが好きだ」と、エジプト人なのに根暗なお返事。「ボールが一つで22人でプレイするなんてクレイジーだ。ボールは一人一個あればいい」とか言っているので「それじゃكرة القدمじゃなくてكرات القدمだよ」と冗談を言ったらウケてくれました(「ボール」を意味する単語を複数形にしただけのシャレ)。
前にفول الصين العظيم(フール・ッシーン・ル=アジーム 偉大なる中国の豆)を話題にした حمد هنيدي(ムハンマド・へニーディー)主演の映画を見る。見ている途中で、「これは『アメリカ大学のサイーディ』だ!」と気づき、色々な要素がバチバチッとつながりました。
『アメリカ大学のサイーディ』は、ムハンマド・へニーディ主演の大ヒット映画で、サイーディ(上エジプト出身者のことで、エジプトでは「頑固な田舎者」というイメージ)が、生まれとは正反対のカイロのアメリカン大学に入り、ドタバタ喜劇を演じながら、アイデンティティの危機と再発見が描かれる、という名作です。八木久美子先生が
『アラブ・イスラム世界における他者像の変遷』 で取り上げられているのを目にしてから、ずっと気になっていました。
実際に目にするのは初めてで、その主演が、同じく非常に面白かった「フール・ッシーン・ル=アジーム」のムハンマド・へニーディだとやっと気づき、自分の興味が連鎖して一気につながった感じです。
ムハンマド・へニーディは本当に面白いコメディ俳優で、彼の主演作品はもっと日本で紹介されてしかるべきです。エジプトのコメディ映画は非常に面白くてわかりやすく、台詞がロクに聞き取れないまま見ても十分に楽しめます。
「エジプトはアラブ世界のエンタテイメントの発信基地だったが、今はアメリカ文化に押されてちょっと落ち目」というのはよく聞く話ですが、わたしの眺める限りでは、今でもエジプト人はエジプト映画やエジプトのポップ音楽が非常に好きで、特にコメディ映画は、外国人のわたしから見ても質が高いです。ハリウッドのコメディなんかよりずっとわかりやすくて笑えるのに、何でもっと紹介されないのか不思議です。言語を磨いて、一円にならなくてもそういう仕事のお手伝いがしてみたいです。
バッサームが店を閉めてから、一緒に海辺をお散歩。
「ダンスを教えてやる」と言って歩いていくのでどこに行くのかと思ったら、マシュラバビーチを南の方にずっと下ったBlack Princeというクラブの辺りに来ます。大音量でダンスミュージックをかけているロシア人の多い店で、「そんな高いところに入るのか」とびっくりしたら、そのまま通り過ぎて、浜辺の暗がりに行きます。Black Princeから流れてくる音楽のおこぼれで楽しもう、ということらしいです。確かにそれならタダで、彼の嫌いなお酒も目にしないで済みます(笑)。
そこから更に南に歩くと、周囲が真っ暗になり、星がキレイに見えます。まだ秋口なのにオリオン座が見えます。そこはシェラトンが新しいホテルと作っているところで、もう少ししたらまた一つ美しい暗闇が消えてしまうことになります。
アカバ湾の向こうに、サウジアラビアの街の光が見えます。バッサームは「タブークだ」と言っていましたが、タブークは内陸のはずで、マグナーという街です(文字で見ると「マコナー」くらいの発音になりそうですが、ダハブ在住の他のエジプト人がマグナーと発音していました。エジプト方言の読み方ではないのですが、当地の発音に従ったものなのか、どこかの訛りなのか、わたしの耳がおかしいのか、気になります)。
その南には、ラグーナという高級ホテルがあります。値段相応にすごくデラックスで楽園のようなオーラを放っています。
それにしても、土地ごとに観光客の出身国が違って、また国ごとに利用先タイプが分かれているのが興味深いです。シャルムはイタリア人、ダハブはロシア人が多く、日本人はシャルムにはほとんどいなくて、ダハブはバックパッカー系の楽しみ方をする人だけが集まります。日本で「デラックス・エジプト」を楽しみたい人は、カイロやルクソル、アスワーン、アブ・シンベルなどのみに集中し、ビーチリゾート系には流れないのでしょう。高級ビーチリゾートを求めるなら、日本人ならタイ辺りの方が手軽ですからね。
元々「観光」にあまり興味がなかったワタクシですが、この旅が非常に楽しくて、今頃になって旅行がすごく好きになってきました。砂漠キャンプとか、いかにもひたすら過酷そうなものも、体験しておこうかと考えはじめました。こういう楽しみを紹介できるなら、観光産業というお仕事も素敵ですね。今までスルーしていてごめんなさい。
ダハブの犬 posted by
(C)ほじょこ
テーマ:エジプト - ジャンル:海外情報
エジプトのITエンジニア、ムハンマド・へニーディ『アメリカ大学のサイーディ』、サッカーの嫌いなエジプト人 |2009/09/29(火) 12:34:41|
シナイ半島の旅
朝食抜き。ダラダラ勉強していたら、Sさんから電話がかかってきて、タラアト・ハルブへ。一時間くらいシーシャを吹かしてぼんやりお茶する。
行きはバス、帰りはメトロだったけれど、宿がメトロの駅から遠くて日差しが辛いです。
またへルビーさんのターンメイヤを買うけれど、なんかお疲れ気味の様子。エジプトの人は何でも顔に出るし、情緒の揺れが大きいので、特に気にしないでおきます。日本人としてはあり得ないほど顔に出してしまうわたしも、こういう印象を与えていたのか、と学ぶ日々。
関係ないですが、ターンメイヤを食べるといつも眠くなるのはなぜでしょう。
授業前半は不調。
ハーニーが出してくれたヘルバのパワーか、後半から段々調子が出てきて、元気になる。
今更ですが、単純に暑さでバテているのかもしれません。とにかく、一日に受け取る情報量が半端ない上、一日の間の温度差も激しく、楽しいことも辛いことも次から次にやってくるので、身体がついて行ってない気もします。
途中で息抜き?にクルアーンの章句をいくつか一緒に暗誦したら、ものすごい体が軽くなりました。こういう時は、フスハーを勉強していて良かった!と実感します。
授業後、一時間半ほどそのまま自習して勉強終了。
帰ろうとしたところで、珍しくハーニーが「タバコある?」と聞いてきます。
頼んでもいないヘルバをしょっちゅう奢ってくれて、チップを置いていこうとしても頑として受け取らないハーニーがタバコを欲しがっているのに、そういう時に限って切らしていました。
大急ぎで近所の売店まで走り、タバコを二箱買って戻り、一つ箱ごとハーニーに押し付けます。
「いや、一本でいいんだ、一本で」と箱を返そうとしますが、こっちも負けじと押し付けて、何とか受け取ってもらいました。
エロオヤジやしつこいナンパ、シーニーシーニー囃し立てるガラの悪い若者、厚かましいおばちゃん、あの手この手でひっかけようとする外人相手の商売人、そんなエジプト人が溢れている一方、通りすがりの外国人を家に招いてお茶を出してくれるおっちゃん、ジュースを奢ってくれたおっちゃん、一緒に道端でサンドイッチをほうばった若者たち、そしてハーニーのような純真で礼儀正しい労働者がいて、一瞬ごとにエジプト観が揺さぶられます。「良い人と悪い人がいる」のは世界中どこでも一緒ですが、エジプトは幅が広すぎます。
痩せっぽちのキリスト教徒のサイーディー。ハーニー、大好きやで。
そのハーニーにタバコを押し付けていたら、テレビで前にも見たことがある映画をやっていました。最初に見た時も気になっていたのでタイトルを尋ねたところ、محمد هنيدي(ムハンマド・へニーディー)のفول الصين العظيم(フール・ッシーン・ル=アジーム 偉大なる中国の豆)という映画がだそうです。
何が気になるかというと、この映画、エジプト人主演のカンフー映画なのです。
正確に言えば、エジプト人はカンフーができるわけではないのですが、憧れの中国を訪れ、そこでカンフーバトルに巻き込まれる、という筋のコメディーです。助演の中国娘がベタにカンフー使い、という設定。ちゃんと中国でロケしている立派な娯楽大作です。
早口のアーンミーヤで台詞はあまり聞き取れないのですが、台詞がわからなくても楽しめるくらい、良くできた映画です。香港映画やハリウッド・コメディーにもひけをとりません。日本で見ることはできないのでしょうか。字幕をつけて上演したら、結構人気になると思うのですが。
ムハンマド・へニーディーというコメディー俳優も、この映画自体も、かなり有名とのことです。この俳優さんは他の映画でも見た覚えがありますが、確かにすごく面白いです。
ちなみに、この映画の中で、中国人が「ボーヤ、ボーヤ、ボーヤ!」と言いながら携帯電話を車の窓から投げ捨てる場面があります。لا لا لاと字幕がついていたので、「ノー」の意味だと思います。時々エジプト人がわたしを見て「ボーヤボーヤ!」と叫んでいたのですが、元ネタはこの映画だということが分かりました。叫んでいるエジプト人も意味もわからず変な中国語とだけ思っているのでしょうが、こっちも中国語はまったくわからないです。最初は「坊や」のことかと思い、超意味不明でした。いや、ネタがわかっても相変わらず意味不明ですが・・。
近所をブラついて、ナッツ屋さんで木の実を買う。
このナッツ屋さんの店員さんが、大衆向けの普通の店なのに、エジプト人とは思えないほど(失礼)礼儀正しくて、感動しました。両替もイヤな顔一つせずやってくれて、ナッツも安くておいしかったです。
帰りに売店で飲み物を買おうとしたら、珍しく働いている女の子に話かけられる。
カイロ大学の学生で、卒業したら給料の良い国に働きに行きたい、みたいなことを話していたのですが、今ひとつ聞き取れず、聞き返しても「なんでわかんないのよ」という雰囲気で大声で同じことを繰り返すだけで、おまけに料理中に出てきたらしく右手の包丁を振り回しながらのトークだったので、ちょっとビビりました。エジプトの女子は怖いっす。
ちなみに、「カイロ大学の学生」には数え切れないくらい出会いましたが、そのほとんどが日本で「大学生」と言ってイメージするような人種ではありません。年齢もばらばらで、大抵は働いています。
こう書くと「苦学している立派な青年たち」をイメージされるかもしれませんが、必ずしもそんな清い雰囲気ではなく、ワイルドすぎてついて行けない人もいます。そういう時は、つくづく自分が籠の中でしか生きられないひ弱な人間なのだと思い知らされます。
スイカ売りのロバ posted by
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محمد هنيدي(ムハンマド・へニーディー)のفول الصين العظيم(フール・ッシーン・ル=アジーム 偉大なる中国の豆) |2009/08/22(土) 04:30:53|
エジプト留学日記