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シャルム・ッシェーフからダハブへ

9/23

 朝、とりあえずハリーグ・ッナアマ(ナアマベイ)まで行くものの、既にやることがありません。昨日あったハーリドおじさんに挨拶して、「どうしたものか」と考えていたら、突然「ダハブに行く」というアイデアが閃きました。
 ダハブはシャルムからアカバ湾沿いにバスで一時間半ほど北上したところにあり、同じくビーチリゾートですが、物価がずっと安く、バックパッカーの聖地として知られたところです。
 まったくの思いつきですが、行き当たりばったりの方が面白いし、どうせ暇なのでダハブを覗いてみることにしました。

 マイクロバスで長距離バスターミナルへ。
 長距離バスターミナルは、ハリーグ・ッナアマとイル・ミーヤを結ぶ道のちょうど中間にあるのですが、この通りからすぐの旧ターミナルと、通りから離れた新バスターミナルがあります。マイクロバスを降りて旧バスターミナルに行ったのですが、廃墟のようで警官(見た目は兵隊)がたむろしているだけです。シャルムに着いた時は夜中でよくわかっていなかったのですが、旧バスターミナルは降車専用になっているらしいです。
 警官が「通りの最後にある」というのでそちらに向かってみたのですが、その通りというのが砂漠の真ん中をひたすら突っ切っている道で、「最後」なんて地平線の彼方です。本当にそんな場所なのか信じられず、新聞売りに聞いたところ、また「通りの端っこだ」と言います。仕方ないのでついでに新聞を買って歩き始めました。
 ちなみに、新聞は普通1ポンドですが、シャルムでは1.5ポンドが相場で、この新聞売りは通りで車に売っているせいか、4ポンドくらいボッタくりました。

 この通りの最後に、バスターミナルがあります。ちょっと凹みます。

シャルム・ッシェーフの長距離バスターミナルへの道
シャルム・ッシェーフの長距離バスターミナルへの道 posted by (C)ほじょこ

 タクシーが時々声をかけてきますが、「いらん」の一点張り。とはいえ、こんな道を真昼間に歩いていたら、バスターミナルに着く前に日射病で二回くらい死ねそうです。後でこの通りもマイクロバスが通っていると知ったのですが、この時は「気合で歩くかタクシーにボッタくられるか」の厳しい二者択一を迫られていると信じていました。
 突然、軽トラ状の小型保冷車が止まり、声をかけてきます。「どうせロクでもないヤツだろう」と思いつつ、一応「バスターミナルまで行く」と言ってみると、「乗せてやる」と言います。「いくらだ」と聞くと「金はいらん、これはタクシーじゃない」とのお答え。多少不用心ですが、あまりの日光のキツさに参っていたので、お言葉に甘えてみることにしました。
 これがこの旅で最高の思い出の一つになった、サイードとの出会いでした。

 サイードはエジフードという食品会社のトラックドライバー。アスワーン出身で、アレキサンドリアに家族がいて、シャルムに出稼ぎに来ているそうです。本当にバスターミナルまで送ってくれて、一緒にバスを待つことになりました。
 最初の頃は「また面倒なのに気に入られてしまった」と警戒心バリバリだったのですが、物静かで全身からイイ人オーラを放っています。声をかけてくるエジプト人の九割方はセックス&マネーが目的だと思ってよいですが、一割くらいは本当にイイ人がいます。彼はその一割の方でした。
 何度もバスの時間を気にしていると「聞いてきてやる」と自分で聞けるのに窓口まで行ってくれます。おまけに、なんということか、ダハブまでのバスチケットを奢ってくれました。
 さすがに恐縮して何度も断ったのですが、チケットやらお茶やらお菓子やら、次から次へと買ってくれます。エジプト人は、とにかく困っている人は絶対に放っておかず、時に助けすぎるくらい助けてくれて、それがかえって困るくらいなのですが(笑)、サイードのイイヤツぶりは飛びぬけています。お喋りすぎないのも男らしくてカッコイイです。
 バスが到着して「乗る」と言っているのに「まだ大丈夫だ」とお喋りを続けようとし、電話番号を交換した後、バスが発進してから慌てて追いかけてつかまる、という別れ方をしました。

 バスはカイロからのバスと同じく非常に清潔で快適。
 なぜかコリアン女性の四人組が「チケット20ポンドは高い」とゴネていて、わたしに「いくらだ」と聞いてきます。サイードが買ってくれたのでよくわかっていませんでしたが、チケットを見ると20ポンドと書いてあります。確かに聞いていた相場より高いのですが、印刷してあるのでボッタクリとも思えません。
 シャルム-ダハブ間は最終的に三回行き来することになったのですが、バスの値段がその度に違い、この時が一番高かったです。切符に印刷されているので、顔を見てふっかけているわけではなく、何らかの基準で便により何通りかの料金があるようです。

 海沿いではなく、岩砂漠の中をひたすら走ります。シナイ半島の砂漠は日本でイメージする「砂漠」ではなく、赤茶色の岩がゴロゴロして、たまに申し訳程度の草が見える礫砂漠です。起伏が激しく山が続きますが、この山も山というより巨大な岩という感じで、こんなところをラクダで旅した昔の人は尋常ではありません。火星の大地のようです。
 行程の途中で小さな集落を見かけたのですが、当然電気もガスも水道もなく、農業などまったく不可能な地で、一体どうやって暮らしているのか不思議です。子供がラクダに乗って走っていました。

シャルム・ッシェーフからダハブへ
シャルム・ッシェーフからダハブへ posted by (C)ほじょこ

 ダハブ着。
 長距離バスターミナルでは、例によってタクシーの客引きが寄ってきます。シャルム以上にダハブの地理事情に無知だったのですが、マシュラバという所がバックパッカーの沈没エリアらしい、という程度の知識はあったので、「マシュラバまでいくらだ」と聞くと「25ポンド」と言ってきます。
 「アホか」と思い「いらん、歩く」と言うと、どんどん値下げしてきて、最終的に5ポンドになりました。後でわかりましたが、マシュラバ-ダハブ長距離バスターミナル間の現在のタクシー相場は5ポンドです。
 でも、着いていってみると乗り物は軽トラ。トラックの荷台に乗る乗り合いタクシーです。これなら5ポンドでも高いです。ヨーロッパ人の先客に「いくら払った」と聞くと「10ポンド」と言います。軽トラの荷台で10ポンドはボッタクリでしょう。
 ちなみにこの「ハムシー、シュクラン(歩くしいらん)」作戦はかなり有効で、ほぼ確実にタクシーは値下げしてくれますが、諦めて行ってしまうこともありますので、本当に歩く覚悟をもって言った方が良いです。わたしはデフォルト歩くつもりで、すべてを諦めて行動するようにしています。

 マシュラバ着。
 西部劇の舞台みたいな場所で、メキシコかタイのショボいリゾートのようです。とにかく、エジプトの雰囲気ではありません。
 ゆる~いイイ感じの空気が流れていて、一発で気に入りました。ビーチ沿いに出て、ブラブラお散歩します。シャルムのような喧騒もないし、嘘くさい高級リゾートでもないし、みやげ物屋やビーチ沿いのマタアムの客引きはあるものの、カイロやシャルムのようにしつこくありません(値段はちゃんと高い)。

ダハブの路地
ダハブの路地 posted by (C)ほじょこ

 シャルムと同じく、犬が多くて、かつカイロのように荒んだ野良犬ではないのも、エジプトの他の地域とは違います。犬も人間もフレンドリー。穏やかな地に暮らしていると、生き物すべてがグッド・バイブレーションになるのでしょうか。
 ビーチ沿いの遊歩道の橋に寄りかかり、ぼんやり夕暮れを眺めます。静かに打ち寄せる波の向こうには、アラビア半島の山々が見えます。海の向こうはサウジアラビアです。

ダハブの海
ダハブの海 posted by (C)ほじょこ

 ひとしきりビーチ沿いを探検した後、MEYA MEYA(ミーヤミーヤ=絶好調)というマタアムに入ります。ベドウィンスタイルなる地べたに寝転がってくつろげるマタアムです。ドレッドのお兄ちゃんが印象的だったのでここにしました。
 ベジタブルライス(17ポンド)とシャーイ(4ポンド)を頼み、新聞を読んだり海を眺めてひたすらぼんやりすごします。

MEYA MEYAのベジタブルライス
MEYA MEYAのベジタブルライス posted by (C)ほじょこ

 こんな穏やかで心地よい時を過ごせたのは、エジプトに来て初めてです。この世の天国だと思いました。
 さらにアシール・ガワーファ(グワヴァジュース、14ポンド)を頼んで、日が暮れても読書ですごします。シャルムのホテルを引き払ってこなかったのを後悔しました。
 もっと長くいたかったのですが、荷物を置いてきてしまっているので、シャルムに戻らざるを得ません。泣く泣く最終便のバスに乗るべく店を出ようとすると、小銭が足りません。
 結局31.5ポンドだけ払い、「残りの3.5ポンドは明日でいいよ」と言われました。「シャルムに戻ってしまう」と伝えると「じゃあ次に来た時ね」とのお答え。「ありがとう、インターネットに書いておくよ!」とお礼を言って店を去りました。
 この内容で35ポンドはかなり高いですが、ビーチ沿いの観光客向けマタアムの中では安い方です。もちろんシャルムよりは大分安いです。食べ物も美味しかったし、とても居心地が良かったので、観光地価格でも不満はありません。
 ちなみに、安く済まそうと思えばダハブには大衆食堂もあります。ビーチ沿いは観光客向けの店が並んでいる、というだけです。

ダハブのMEYA MEYAからの夕暮れ
ダハブのMEYA MEYAからの夕暮れ posted by (C)ほじょこ

 マシュラバの乗り合いトラック乗り場から長距離バスターミナルへ。タクシーを拾うと、最初15ポンドでしたが、値切って10ポンドに。これでも高いですが、この時点では相場が把握し切れていなくて折れました。

 シャルム行きのバス、15ポンド。来た時は20ポンドだったのに、なぜか安くなっています。

 シャルム着。
 長距離バスターミナルにはベドウィンがたむろしていて、ボッタクリタクシーに引っ張り込もうとします。トラックの荷台で25ポンドとかふざけたことを言っているので、完全拒否です。
 ベドウィンは湾岸系のようで少し違うファッションをしているので、一目でわかります。ダハブもシャルムもベドウィン出身者がかなり多いです。前にDさんが「生まれた時からフスハーだけ喋っている」と言っていた人たちです。
 実際には、街で働いているベドウィンはエジプト方言を話せるし、ベドウィン独特の方言もあるそうなので、「フスハーネイティヴ」というのは正しくないでしょう。ただ、エジプト方言(カイロ方言)よりはフスハーに近い言葉のようですし、エジプト方言は元々彼らの言葉ではないですから、フスハーでコミュニケーションを取る機会が比較的多く、結果的に長じているのかもしれません。
 とりあえず、外国人が接触する街で働く定住ベドウィンは、「ベドウィン」という言葉の純朴な響きと正反対に、野獣のように面倒なヤツらが多いですから、気をつけて下さい。カイロの貧困エリアにおける「子供」という言葉と一緒です。人間だと思ったら負けです。

 「バスターミナルに着いたら電話して」とサイードが言っていたのですが、また送迎させるのも申し訳ないので、大通り沿いまで歩きます。夜なら余裕で歩ける距離です。
 大通りでマイクロバスに乗り込み、イッ=スーゥ・ル=アディーム(オールドマーケット)に戻ります。そこからサイードに電話すると、オールドマーケット内の店にいるとのことで、一緒にお茶することにしました。

 店と言っても、マタアムでもマクハーでもなく、納品先らしいスーパーの前でみんなでお茶を飲みながらダベっているだけです。例によってお茶やらお菓子やら「これでもか」という程奢ってくれます。
 彼はこの辺では知られた顔らしく、友人達とのやり取りから察するに、結構ボス的ポジションにいるようです。確かに兄貴分の風格のある男です。こんな兄貴なら、わたしも子分になってジャムパン買いに走りたいです。
 シャルムでは数年前に爆弾テロがあったのですが(ダハブも同様)、現場はオールドマーケットを出てすぐのところだったそうです。てっきりナアマベイだと思っていたのですが、なぜ敢えてイル=ミーヤを狙ったのでしょう。
 彼は「テロはイスラエルの仕業で、ベドウィンがその手助けをしている」と言います。過激なイスラーム主義者が外国人を狙っている、というのが通説だと思うのですが、エジプトではこの手の「イスラエル陰謀説」が非常に多いです。
 ただ、シャルムもダハブも、イスラエルによる占領から奪還した土地ですから、イスラエルが何らかのパイプによって扇動を図っていたとしても、そんなに驚きません。「陰謀説」もあながち単なるトンデモとは退けられないし、日本人も欧米からの偏向報道に踊らされすぎています。
 また、ベドウィンが何らかの形でテロに関わっている、という可能性も否定は仕切れません。シナイ半島のビーチリゾートは、元々ベドウィンの土地で、一般にエジプト人とベドウィンは仲が良くないです。「ベドウィンはお金を持っているイスラエル人と仲良くしたがる」という話も聞きますし、元々は国境などという観念と無縁な人たちですから、何か関係くらいはあるのかもしれません。
 何故かよくわかりませんが、サイーディー(上エジプト出身者)は特にベドウィンを毛嫌いしている傾向があります。

 サイードが突然「カリーマを知っているか」と聞いてきます。「カリーマって、カリーマ・イル=サムニー?」と尋ねると「そうだ」との答え。前のNHKテレビアラビア語講座の講師で、NHKのアラビア語放送のアナウンサーでもある、あのカリーマ先生です。
 確かに彼女は半分エジプト人ですが、エジプト人からカリーマ先生の話題を振られるとは、想像もしていませんでした。アスワーンでは有名人らしいです。なぜアスワーンなのでしょうか。
 ちなみに、わたしはサインも持っているくらいカリーマ先生大好きっ子です。お美しくて話もおもしろくて、本当に素敵な方です。写真で見ると普通の日本人っぽいのですが、お会いしてみると結構エジプト人ぽかったです。イメージより小柄で可愛らしい感じだったのが印象的です。

 彼の友人の一人が「ゴルブ」という言葉を使い、わたしが「?」という顔をしていると、「قلب heartのアスワーン方言だ」と教えてくれました。カイロ方言ともフスハーとも違う発音です。قがg音に変化するのでしょうか。興味深いです。

 お金もないし迷ったのですが、ダハブのあまりの素晴らしさに、翌日からダハブに移動することを決意。
 高級ビーチリゾートで遊びたいならシャルムですが、そういう志向の日本人は多分エジプトには行かないと思うし、ぼんやりしたいならダハブです。ダハブ、最高! かなり真剣に住みたいです。
 ただ、ダハブもここ数年すごい勢いで開発が進んでいると言いますし、実際あちこちに建設中のホテルがあります。物価についても、シャルムより安いとは言え、カイロなどよりは高いです。おそらく、数年前だったらもっと安くてのどかな場所だったのでしょうが、現在ではかなり普通のリゾートに近くなりつつあります。
 バックパッカーは、ヌエバアとかもっと僻地を目指すようになっているのではないでしょうか。
 ちなみに、シャルムはイタリア人が非常に多く、英語に次いでイタリア語が準公用語なのに対し、ダハブの比較的高級なエリアはロシア人が多いです。ロシアの次はドイツ人ではないかと思います。
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  1. シャルム・ッシェーフからダハブへ|2009/09/28(月) 21:00:35|
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Author:ほじょこ
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