大学での二カーブ禁止が覆されたことについてのカリカチュア。アーンミーヤです。
二カーブのカリカチュア posted by
(C)ほじょこ إبتسموا شوية علشان شكلكم يطلع حلو في الصورة
القضاء الإداري يلغى قرار منع النقاب في المدن الجامعة
ちょっと微笑んで、可愛く写真に写るでしょ!
「学生寮での二カーブ禁止決定が覆される」
二カーブというのは、目以外スッポリ覆ってしまうもので、髪を覆うヒジャーブ(ヒガーブ)とは違います。「イスラーム的なもの」「いや、単なるアラブの習慣」と意見が分かれていて、ざっと見る限りムンタキビーン(二カーブ着用者)の比率は5%未満ですが、徐々に増えているようです(ヒジャーブについては99%くらい着用しているが、ほんの数十年前まではまちまちだったらしい)。
イスラーム主義の伸張を恐れる政府としては、色々理由を付けてニカーブを締め出したいのですが、学生寮(学生街)でのニカーブ禁止が、市民と学生の反対にあって覆された、というニュースが、この漫画の元ネタです。
ニカーブが実際上の問題を起こすこともある、というのは事実で、ニカーブを着用した男性が女子寮に侵入、という事件も実際にありました。これはニカーブのせいというよりアホな男が悪いだけですが、治安上の問題にもなり得る、というのは根も葉もないわけではありません(IDカードなどにはニカーブなしの写真が使用され、身元確認時には顔を見せる必要がある)。
豚インフルエンザにかこつけて「衛生上の問題」で批判しようという向きもありますが、これは幾らなんでもこじつけでしょう。
個人的には、ニカーブを「禁止」するような政府の方針には反対ですが、一方でニカーブがイスラーム本来のものなのかは疑わしいと考えています。
F女史にこの話題をぶつけたところ、「ニカーブ支持者の反論」として、こういうものを教えて貰えました。
① ニカーブがイスラーム本来のものなのか(義務であるか)は、確かに判然としない。しかし、もし義務であり、かつニカーブをしていなかったら、審判の日に裁きを受けるだろう。一方、義務ではないのにニカーブをしていても、別に問題はない。だから、ニカーブを着用するのは一種の保険だ。
② ハッジ(マッカへの巡礼)の際には、ニカーブは許されない。神の前で顔を露にしなければならないからだ(これは明白な規定)。この特別な機会の際に顔を露にするということは、普段は隠しておけ、ということだ。
どちらも根拠としては覚束ないですが、一応理屈としてはこういうものがあるようです。
とりわけ、①の「保険」の姿勢には、危険が感じられます。「保険」などと言い始めたら、いくらでも保険をかけられるわけであって、ちょっとでも「こちらがマシ」な選択があったら、暗黙のうちに「この選択が絶対」な空気を作る地盤になり兼ねません。イスラームは本来、そんな堅苦しいものではないはずなのですが、「保険」の思想には変な空気の圧力を作り出してしまう弊害があるように見えます。
F女史曰く「仕方ない理由があれば、義務であっても絶対ではない。砂漠の真ん中で豚以外食べ物がなく、豚を食べないと死ぬのであれば、豚を食べることでも許される」。
個人の好悪とか政府の意向とか以前に、ニカーブをしていては、働ける職場がかなり限られます。百歩譲ってニカーブが「義務」であったとしても、当該女性が働かざるを得ない状況なら、ニカーブを着用しないことは罪ではないはずです。
それ以前に、個人的にニカーブを好きになれない理由は、ニカーブが今や、着用していることで「貞淑さ」を演出する、一種の見栄のように使われているからです。
女が服で見栄を張るのは洋の東西を問いませんから、それ自体が害毒と言いたいわけではありませんが、イスラーム的に褒められないことをイスラームにかこつけて行う、というのは、あまり好ましい行いとは思えません。
それでも、暴走する方向が「こっち」というのは、欧米や日本の女性の方向に比べれば、ずっと好ましいと思いますけれどね・・・。
ただ、ニカーブの是非とかヒジャーブの是非という以前に、注意しなければならないのは、外の世界から見て分かりやすいこうした「指標」というのは、当のイスラーム社会では、別段「絶対」ではない、ということです。
サウジのように法的に縛ってしまっている場合は別ですが(ちなみに、こういうやり方には多くのエジプト人が反感を抱いている)、「ヒジャーブは義務である」と考えているムスリマが、ヒジャーブをしていないムスリマを見たからといって、馬鹿にしたり非難したりすることはないし、友達の場合もあります。ヒジャーブをしているとかしていないとかいうのは、人間を構成する無数の要素の一つに過ぎないし、そんな一点で全否定・全肯定するほど、彼らは単純ではありません。
なんというか、一人の人間の中に、非常に頭の固い面と、緩やかな面が同居しているようなところがあり、なぜこの間の矛盾が破綻に至らないのか、不思議に感じることも少なくない程です。
「教条主義的なイスラーム」というのはステレオタイプですが、かといって「実は緩い」というのはやっぱり嘘で、極普通のムスリムでも、結構ちゃんと頭は固いですよ(笑)。「固いか柔らかいか」ではなく、めちゃくちゃ融通の利かないことを言うくせに、三歩歩くと違うことをしている、という「結果としての緩さ」が同居していて、しかも誰もツッコまない、というのが面白いところです。
追記:
ややこしいようなので、今一度整理します。
・ニカーブ:目以外すっぽり覆うもの。エジプトでは着用率5%未満。ほとんどは黒一色だが、エジプトでは紺色っぽいものもある。よく見るとデザインも豊富。「義務」と考える人と、そうでない人がいる。そもそもイスラームと関係ない、という人もいる(位置づけが怪しい)。
・ヒジャーブ(ヒガーブ):髪を覆うだけのもの。エジプトでは着用率99%。非常にカラフルでデザインも多様。ほとんどの人が「義務」と考えている(位置づけはかなり定着している)。
チャドルとか、欧米で「スカーフ」と呼ばれているのもヒジャーブです。
ヒジャーブは単に髪の毛を覆っているだけのものですから、そこ以外は普通の洋服です。肌を露出することさえありませんが(スカートも超ロングで夏でも長袖)、その一点以外は、エジプト人は日本人より遥かに派手です。ヒジャーブと洋服の色を合わせるのにも神経を使っていて、みんな何十枚もヒジャーブ持っているそうです。
争点になっているのは「ニカーブ」であり、「ヒジャーブ」ではありません。
ヒジャーブの重要性については、ほとんどすべてのムスリムが一致しているので、万が一政府がヒジャーブを規制しようとしたら、間違いなく暴動になります(笑)。
エジプト政府は、過激なイスラーム主義の伸張を恐れてはいますが、ムスリムが大多数の国なわけで、政府だってそれなりにイスラーム的要素はあります。単に「行き過ぎる」のを警戒しているだけです。
一方、サウジアラビアなどでは、「ニカーブ」が逆に法的に義務付けられていますが、こういう「宗教を法律で押し付ける」やり方には、エジプト人は反感を抱いています。
ニカーブ支持派と言えど、別に「ニカーブを義務化せよ」とか思っているわけでは全然なく、単に「着たいヤツには着させてやれ」と言っているだけです。ニカーブ義務化したりしたら、これまた暴動が起きると思います(笑)。
フランスの公共の場で禁止されて話題になったのは、「ヒジャーブ」の方です。というか、流石にフランスでニカーブをしようという人はいないでしょう(笑)。
位置づけについてに合意がほぼ得られている「ヒジャーブ」だから、禁止が猛反対を受けたのであり、仮に「ニカーブ」が対象だったら、少なくともエジプト人なら「まぁそりゃ仕方ないんじゃね」くらいには受け止めたと思います。
ヒジャーブだけなら、治安などの実際的問題は何もないはずですし、「髪を隠す」というのはムスリマにとってかなり重要な一線ですから、怒る人がいるのは当然です。
もちろん、法律で禁止され止むを得ずヒジャーブを解いても、「罪」ではないはずですが、抵抗するムスリマの気持ちは非常によく理解できます。
カリーマ・エルサムニー先生が良い例えをあげていましたが、例えば日本で、ミニスカートが義務化されたとしたら、発狂しそうになる女性がかなりいるはずです。慣れたらどうということはないかもしれませんが、服装とか「肌のここまでなら見せられる」というのは、長年染み付いた習慣であって、そう簡単に変えられるものではありません。ムスリマにヒジャーブを解けというのは、万年パンツの女に「明日からミニスカートで来い」というようなもので、わたしなら会社辞めます(笑)。
今思いつきましたが、男性が「明日からミニスカートで来い」と言われるようなもの、と言ったら、もっと分かりやすいでしょうか(笑)。いや、全然違う話かな。会社辞めるでしょ。辞めなかったら、色んな意味で男じゃないよ(笑)。
髪を隠すとか顔を覆うとかと関係なく、「アバーヤ」というズルンとしたワンピース状の長衣がありますが(ほとんどは黒だが違う色もある)、これはイスラームではなくアラブに由来するもの。普通はアバーヤ+ヒジャーブになりますが、ヒジャーブなしでアバーヤを着ている人もいます(わたしココ)。
アバーヤは「身体の線を出さない」という意味で、よりイスラーム的に好ましいはずですが、イスラームに由来するものでもなく、着ているのは庶民系の人が多いです。単に楽だからだと思います(わたしまたココ)。
女性用の外套で、厚手の生地のものが多いですが、アバーヤ命な女性は夏でもこれで通していて、しかも下には普通の洋服を着ていますから、ものすごい暑さ耐性です。
「ガラベーヤ」というのは、同じようなワンピースですが、カラフルな部屋着です。女性はスークのオバチャンみたいな超庶民系以外、これで外出することはありません。ガラベーヤは男性用もあり、庶民系のお父ちゃんたちがガラベーヤ一枚でウロウロしています。ノリ的には浴衣っぽい(笑)。エジプトに由来するもの(イスラームには全然関係ない)。
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テーマ:エジプト - ジャンル:海外情報
二カーブ禁止撤回、ニカーブ支持者の理屈 |2009/12/16(水) 07:58:37|
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